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海外不動産の税金のキホン

海外不動産の税金のキホン(3/5)

【著者】 信成国際税理士法人
【第3章】 海外不動産の運用に関する税金

当社主催の海外不動産に関する税金のセミナーでお世話になっている信成国際税理士法人の福島先生が執筆した本がございます。今回は福島先生より本の内容を一部ご紹介頂きました。本は5部構成になっており5回に渡って内容をご提供したいと考えております。


SECTION1.海外資産の運用手続きと税金


不動産の運用に必要な手続き_賃貸収入

 以前から根強いハワイ人気や新興国の活況を見据えて、投資対象を海外不動産にする方も少なくありません。ただし、不動産投資するのは預貯金や有価証券ほど簡単ではなく、日本と同様、一定の手続きを踏む必要があります。
 ハワイを例にとれば、日本の居住者に対してハワイの物件の家賃収入を支払うとき、連邦税30%が源泉徴収されます。これを防ぐため、連邦税とハワイ州税の納税者番号を取得したり、「Form W8-BEN」という非居住者が低税率の適用を受けるための書面を提出する必要があります。更に、ローンを組む場合、非居住者のローンを取り扱う現地銀行が少ないことや、審査そのものに時間がかかることから、物件の契約前に余裕をもってローンの準備をしなくてはなりません。
 また諸外国によっては、こういった事情が大きく異なります。そのため、お金を実際に動かす前に、入念な下調べが欠かせません。

2.賃貸収入に関して発生する国内外の税金

海外不動産の賃貸収入についても、外貨預金や外国の有価証券等と同様、日本と海外の両方の税金がかかることが通常です。
 日本においては、賃貸収入については不動産所得として毎年3月15日までに確定申告をしなくてはなりません。
 海外については、不動産が所在する現地国の税法に従います。たとえば、ハワイならば、不動産の評価額に応じた固定資産税、ハワイ州消費税及びホテル税、そして賃貸収入に関する所得税がかかります。
 なお、日本と海外の二重課税部分については、租税条約や外国税額控除により解消することができます。

SECTION2.海外資産の運用に係る確定申告


海外資産からの収益にも税金が発生します


1.海外でも資産を運用したら所得税がかかる


前の節にて、海外資産に係る収入に対して課される税金を、主に源泉徴収(所得税の手引き)の観点から見てきました。次に税額を確定させる手続きとして確定申告を見ていきます。

2.所得税はこうなっている

一定の収入を得ている以上、ほとんどの人が払わなくてはならないのが所得税です。その内容は次のようになっています。
1.特徴
(1)個人に課税します。家族ごとではありません。
(2)毎年1月1日から12月31日までに発生した所得に課税します(暦年単位課税)。
(3)所得は10種類に分類してから計算します。
(4)所得金額が増えると適用される税率が階段状に増加します(超過累進税率)。
(5)合計して計算するもの(総合課税)と、分けて計算するもの(分離課税)があります。
(6)自分で確定申告を行うのが原則です(申告納税方式)。

2.所得の種類

 所得の種類は、大別すると「総合課税」と「分離課税」の2つに分けられます。そして、各所得の内訳は次のようになります。
(1)総合課税
①利子所得…海外の預貯金の利子等
②配当所得…株式の配当等
③不動産所得…不動産の貸付収入
④事業所得…個人事業主・フリーランスの収入
⑤給与所得…給料・賞与・バイト代の収入
⑥一時所得…保険契約の満期金収入等
⑦雑所得…公的年金収入、その他の収入
⑧譲渡所得(不動産と株式等を除く)…車両などの売却の収入
(2)分離課税
①利子所得…国内の預貯金の利子等
②配当所得…上場株式の配当等(申告不要制度を含む)
③譲渡所得(不動産と株式等)…土地、建物や株式等の売却収入
④退職所得…退職金収入(ただし、超過累進税課税率を適用)
⑤山林所得…山林の売却収入(ただし、超過累進税率を適用する)

所得税は、原則として累進課税です。そして、「総合課税」は、各所得ごとに所得金額を計算した後、すべてを合算して超過累進税率が適用される所得のグループとなります。本来ならば、すべての所得について総合課税とすべきところです。
しかし、退職所得や不動産や株式等に係る譲渡所得、山林所得など、所得金額が大きく、かつ一時的なものに過ぎない所得についてまで累進課税を適用したらどうなるでしょうか。
   通常、退職した場合や不動産等の売却をした場合、それ以前よりも収入が減ります。また、その売却益は、余裕資金ではなく、老後の生活費や次の資産の購入など用途が既に決まっていることが多いものです。そんな中、累進課税を適用すると、一時的な出来事のために多額の税金を払わなければならなくなります。この状況に対して配慮しないことは、課税公平性の観点から望ましくありません。
したがって、これらの所得に関しては、他の所得から分離して単独で計算をする「分離課税」制度を適用することになっています。

海外資産の税金のキホン

3.所得ごとに考え方が違う複雑な計算

所得税の計算は次の3つの順に計算していきます。
1.各種所得の計算と損益通算

所得については、基本的に、各所得ごとに「収入金額-必要経費=所得」で計算します。ただし、給与所得においては「給与所得控除」となるように、所得によっては名称や計算内容が若干違います。
損益通算とは、所得計算上生じた赤字を他の所得と通算することをいいます。これが認められているのは、不動産所得、事業所得、山林所得、一定の要件を満たした自宅の譲渡についての不動産等の譲渡所得、不動産及び株式等以外の譲渡所得です。
なお、同一所得内で通算することを「内部通算」といいます。内部通算については、特に規制はありません。

2.所得控除と課税所得の算出

所得控除は、個々人の事情に配慮した項目です。純粋に所得部分にのみ着目した項目です。理論上は、このままの状態で税率を乗じて税額を算出するところです。しかし、実際には、災害で財産を失ったり、教育費のかかる年齢の扶養家族がいたり、あるいは障害をもっていたりなど、人によって抱える事情が違います。そういったことに配慮した控除を行うことで課税の公平性を保っています。
所得控除には、雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄付金控除、障害者控除、寡婦(夫)控除、勤労学生控除、配偶者(特別)控除、扶養控除、基礎控除があります。
 また、所得控除は次の順序で行います。
①総所得金額
②分離課税の不動産等の譲渡所得(短期)
③分離課税の不動産等の譲渡所得(長期)
④分離課税の上場株式等の配当所得
⑤分離課税の株式等の譲渡所得
⑥分離課税の先物取引に係る雑所得
⑦山林所得
⑧退職所得

3.税額計算と税額控除

2で算出された課税所得金額に、税率を乗じて算出されるのが所得税額です。総所得金額と山林所得にはそれぞれ所得金額に応じた税率(超過累進税率)を乗じて計算しますが、分離課税対象となる所得については、固定された一定の税率を乗じて計算します。
また、ここでも、それぞれの事情に応じて税額控除を行います。配当控除、住宅ローン控除、外国税額控除がこれにあたります。

4 納税義務者の範囲と課税所得

海外資産の税金のキホン

1.納税義務者の範囲 キーワードは、「日本に住所があるかどうか」「日本の国籍があるかどうか」です。
所得税における納税義務者は、原則として個人です。ただ、法人や人格のない社団等であっても、一部の所得(預金利子や株式の配当など源泉徴収の対象となる所得)については所得税を納めなくてはなりません。所得税においては、個人の納税義務者を次のように区分します。

●居住者
イ 非永住者以外の居住者
・・・国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人のうち、非永住者以外の者
ロ 非永住者
・・・日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において、国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下の個人
●非居住者
・・・上記以外の個人

 例えば日本在住の外国人が所得税の納税義務者に該当するかどうかについては、その外国人がいつ住所を有するようになったかによって変わります。

2.課税所得の範囲と課税方式

日本に住んでいたら原則「全世界所得課税」です。
 1で納税義務者を区分しましたが、これによって所得税が課される所得の範囲と課税方式が左右されます。具体的には次のようになります。

①居住者
イ 非永住者以外の居住者
【課税所得の範囲】
国内源泉所得の全部及び国外源泉所得の全部。つまり、国内で得た所得であっても外国で得た所得であっても課税されます。これを「全世界所得課税」ともいいます。
【課税方式】
総合課税(申告納税方式)。基本的に、一度全ての所得を合算した上で納税額を計算します。
 
ロ 非永住者
【課税所得の範囲】
国内源泉所得の全部及び国外源泉所得のうち国内で支払いを受けたもの又は国内に送金されたもの。たとえば、国外に不動産を有していてそこから賃貸料収入を受けている場合、国外の銀行口座でその収入を支払ってもらい、かつキープしているだけなら日本の所得税はかかりません。その収入を日本の口座に直接支払ってもらうか、あるいは外国の銀行口座から日本 の銀行口座に送金すると、その送金した部分の金額について課税されます。
【課税方式】
    総合課税(申告納税方式)。基本的に、一度全ての所得を合算した上で納税額を計算します。
②非居住者
【課税所得の範囲】
国内源泉所得についてのみ所得税が課税されます。
【課税方式】
    原則として、15.315%又は20.42%による源泉分離課税を行って完了です。ただし、所得によっては、総合課税による申告納税方式を適用することもあります。

5.海外での不動産運用に関係する所得税のポイント

海外の不動産運用に関係する所得税は、総合課税の対象となり、自分で確定申告をする必要があります。基本的に、国内での不動産の賃貸収入と同じように所得計算を行います。
原則として、不動産に係る収入と経費はTTM(外貨を売買する際の価格の仲値)で換算します。しかし、毎年継続することを条件とする場合は、収入についてはTTB(外貨を購入する時のレート)で、経費についてはTTS(外貨を円に戻すときのレート)を用いてより税額上有利に計算することができます。また、減価償却については、不動産取得日のTTSで、借入金の金利や建物の保険料についてはTTSで換算します。
また、アメリカで不動産賃貸を行っている場合、事前にForm W8-BENを提出していなければ賃料から30%の所得税が源泉徴収されています。この場合、アメリカでも日本でも確定申告を行い、源泉所得税の過払い分を還付してもらうだけでなく、日本で外国税額控除を行うことで節税することができます。 

6.日本人が海外投資で失敗する原因は「税に対して無関心」

 現在、日本に住所や居所を持ったまま、FXや株式投資、不動産投資といった形で海外投資にチャレンジすることが珍しいことではなくなりました。インターネット技術の向上により、国内にいても海外の情報が容易に入手できるようになったことと、投資の選択肢が広がり、より気軽なものとなったことが背景にあります。今後の日本の高成長が見込めない現実や、財政赤字による破たんや将来の年金に対する不安や焦りも、こういった海外投資に拍車をかけていると言えます。
 しかし、その一方、海外投資に手を出したことで予想外の支払を迫られ、結果、多額の損失を被るといったケースも後を絶ちません。なぜでしょうか。次の3つの原因が考えられます。

・日本での源泉徴収制度に慣れきってしまっているため、日本人には申告納税に対する意識が低い。
・日本や外国の税制をよく知らないままに投資の知識ばかりを深めてしまう。または、「知らなくても何とかなる!」と思い込んでしまう。
・海外投資を進める銀行や証券会社などの金融機関や仲介業者が、海外投資のメリットを強調するばかりで、日本や外国の税務のシステムやリスクについて細かく説明をしない。

 つまり、日本人は、他国の人に比べて税に対しての関心が薄いのです。実際に、次のような事例が起きています。

7.日本人の海外不動産投資の失敗事例

1.税制を知らずに海外の不動産オーナーとなったBさんのケース

 Bさんは、数年前、日本の不動産会社が主催するセミナーで「日本の不動産価格は、今後下落します。長期的に見て利益が得られるのは海外です!」と言われ、海外での不動産投資に深く興味を持ちました。投資先は、当時成長株と言われ、新聞やTVで常に話題となっていた社会主義のC国。「不動産価格が低迷している日本と違い、C国では大きな不動産収入が見込めるだろう」と考え、C国の賃貸用物件を購入しました。また、セミナーでは「いかにC国での投資がおいしいか」ばかりが解説され、実際の手続きや納税に関しての説明はありませんでした。そのため、Bさんは「海外での投資だから、日本での確定申告なんていらないのだろう。C国だけで税金を納めればいいのだな」と考えてしまいました。
投資して間もなく、当初予想以上の賃貸収入を受けました。Bさんは日本在住なので、その収益を日本に送金しようとしました。しかし、C国の「1年間で日本国内に送金できる金額は400万円以下」という法規制により、全額を日本口座に移すことはできませんでした。そのため、不動産収入の一部は日本に送金できたものの、残りはC国の銀行口座に留まったままとなりました。また、その投資を開始した年についての確定申告では、C国の不動産収入については記載せず、日本国内での所得についてだけ申告しました。
送金処理をして数か月後、税務署からお尋ねが届きました。お尋ねの書面をもって所轄の税務署に赴いた結果、「C国での不動産所得についての申告納税もしなくてはいけません」と指摘を受け、修正申告をするように言われました。
Bさんは、この税務署での指摘について思わずかっとなってしまいました。「不動産はC国にあるじゃないか!どうして投資に一円も関係のない日本でも納税しなきゃならないのだ!」。抵抗しましたが、税務署は「日本の居住者なのだから、C国での所得についても日本で申告することは法律で決まっているのです」の一点張り。結果、修正申告をすることにより、本税だけでなく、追徴税も払わなければならなくなりました。
その後、C国での不動産バブルははじけ、価格は下落傾向に。Bさんは保有の不動産を売ろうとしましたが、なかなか売れません。しかし、毎年の確定申告は相変わらずです。結局、利益の多くが予想外の税金に消えてしまいました。

以上の事例から、次のことを注意する必要があります。

注意①日本に居住している以上、海外投資でも日本で税金を払わなくてはならない

事例の中で見られるように、
「日本で納税しなければならないなんて知らなかった」
「海外での収益だから、税金を納めるのは海外だけであって、日本は関係ないと思っていた」
という人は少なくありません。日本の所得税法では、「非永住者以外の居住者は全世界における所得については申告及び納税をしなくてはならない」となっています。つまり、一定の者を除き、日本に住所を有する人や長く日本に居住している人は、日本国内での所得だけでなく、海外で得られる所得についても、日本の所得税を納めなくてはならないのです。
「海外の収入って、日本の国税庁は追いようがないよね?海外といっても複数国あるし。申告しなくたってばれないよ」
とおっしゃる方もいるかもしれません。しかし、近年、租税回避をめぐる問題が各国で多発しています。その結果、世界各国が国境を越えた脱税や租税回避行為に目を光らせるようになりました。具体的には、租税条約や共助条約の締結や、送金調書の義務化の徹底などです。個人の資産の動きについては、海外の情報がほとんど漏れなく日本の国税庁に伝わるようにネットワーク化がなされています。
また、税務リスクは日本だけではありません。当然、投資先の海外でも生じます。先進 国であるからといって日本と同じとは限りません。また、源泉徴収というシステムがどこの国でも備わっているわけではなく、申告納税が基本となっている国も少なくありません。
日本では、確定申告はせいぜい個人事業主か不動産オーナーくらいしかおらず、ほとんどが源泉徴収システムで徴税されています。そのため、日本人は諸外国の人に比べて納税に対する意識はかなり低いのです。海外投資をする場合は、そのことを踏まえて、意識的に納税に対して関心をもち、勉強するように努めなくてはなりません。

SECTION3.外国税額控除の活用


海外と日本での二重課税を排除


1.海外での所得には、日本でも海外でも税金が発生する


国外の不動産から収益を得ている場合や、国外の有価証券などから配当や譲渡益などを得ている場合、日本でも海外でも税金が課されます。この場合、外国の法令に基づき、その国またはその地方公共団体により個人の所得について課される税(外国所得税)については、一部を除き、基本的に外国税額控除の対象となり、二重課税を排除することができます。 また、この外国税額控除は、日本と租税条約が締結されていない国等で課された所得税であっても、日本の税法の規定により適用することができます。

海外資産の税金のキホン

2.所得税における外国税額控除

その年に国外所得について納付する外国所得税があるときは、配当控除、住宅ローンなどがあった場合等の特別控除など税額控除を行った後の所得税額から、次の算式によって計算した控除限度額を限度として、その外国所得税の額を差し引くことができます。

外国税額控除の限度額=その年分の所得税の額※1×その年分の国外所得総額(※3)÷その年分の所得総額(※2)
※1 その年分の所得税の額
配当控除、住宅ローン控除などを適用した後の所得税の額をいいます。加算税や延滞税などの附帯税は除きます。
※2 その年分の所得総額
その年分における、下記の金額の合計額をいいます。ただし、純損失や雑損失の繰越控除や住宅などの買換えなどについての譲渡損失の繰越控除などはないものとして計算した合計額になります。
(1)総所得金額
(2)分離譲渡所得の金額(短期・長期)
(3)分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額
(4)株式等に係る譲渡所得等の金額
(5)先物取引に係る雑所得等の金額
(6)山林所得金額
(7)退職所得金額

※3 その年分の国外所得総額
国内源泉所得以外の所得だけについて所得を課税するものと仮定した場合の、その年分の所得の金額の合計額をいいます。この合計額の対象となる所得の範囲や除く所得の内容は※2と同じです。

3.一部の所得については必要経費にしてもよい

不動産所得、事業所得、山林所得、一時所得または雑所得についての外国所得税は、税額控除をする代わりに、これらの所得の金額の計算上、必要経費に算入することもできます。ただし、外国税額控除を適用するか、それとも必要経費に算入するかは、それぞれの年ごとに行わなければなりません。また、その年中に確定した外国所得税の全部について選択しなければならないものとされています。

4.外国税額控除の対象になるものとならないもの

外国税額控除の対象となる外国所得税は、1 で述べた外国所得税以外に、個人の所得全体もしくは一部、あるいは収入部分を課税標準としたような税も含まれます。
具体的には、次のようになります。

(1)超過所得税その他個人の所得の特定の部分を課税標準として課される税
(2)個人の所得又はその特定の部分を課税標準として課される税の附加税
(3)個人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、個人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの
(4)個人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税

 その一方、納税者本人が還付請求や納税猶予期間、税率を決めることができるような税金と附帯税などについては、外国税額控除の対象になりません。これ以外にも、納税者個人特有の事情等から、次の場合も、外国税額控除の対象にはなりません。

(1)居住者がその年以前の年において非居住者であった期間内に生じた所得に対して課される外国所得税の額
(2)居住者の所得に対して課される外国所得税の額で租税条約の規定において外国税額控除の規定による控除をされるべき金額の計算にあたって考慮しないものとされるもの
(3)特定外国子会社等から受ける剰余金の配当等の額を課税標準として課される外国所得税の額

 ただし、租税条約によっては、外国での源泉所得税の納付の際に軽減や減免をされた部分の税額については外国税額控除の対象とできるものもあります。実際の適用にあたっては、個別に検討していく必要があります。

5.外国税額控除の適用時期

1.原則
原則として、外国税額控除は、外国所得税を納付することとなる日の属する年分、つまり、申告や賦課決定等によって納税額が具体的に確定した日の属する年分に適用します。しかし、居住者が、毎年継続して実際の納付日の属する年分において外国税額控除を適用している場合には、その取扱いも認められています。

2.予定納付等の場合

居住者が予定納付等をした外国所得税などについても、原則として、納付が確定した日の属する年において、外国税額控除を適用することになります。ただし、その居住者が、毎年継続して、その予定納付等に係る年分の外国所得税についての確定申告や賦課決定があった日の属する年に外国税額控除を適用しているならば、その取扱いも認められています。

3.外国所得税額が増額した場合

外国税額控除の適用を受けた居住者が、後年になって、その外国税額控除の元となった外国所得税額が増額し、またこのときにも外国税額控除の適用を受ける場合には、その増額した外国所得税は、増額した年に新たに生じたものとみなして外国税額控除を適用することになります。

6.外国所得税の邦貨換算

外国税額控除をする場合、日本円に換算しなくてはなりません。この場合の換算に使用する相場は、次のようになります。

●源泉徴収による外国所得税(利子、配当、使用料等に係るもの)
・・・源泉徴収の対象となった利子などを日本円に換算する際に使用した外国為替の売買相場(TTB)
●上記以外のもの…外貨建取引の経費を日本円に換算する場合に使用した外国為替の売買相場(TTB)

7.外国税額控除の繰越控除

外国での納税時期と所得の発生時期とが異なることにより外国税額控除の適用時期にズレが生じることがしばしばあります。この繰越控除はそのズレを前後3年で調整するための制度です。

1.繰越限度控除額

次の場合には、その年の前年以前3年以内の繰越控除限度額(控除限度額の内、その年に繰り越される金額)の範囲内で外国所得税の超過額をその年分の所得税から差し引くことができます。

各年において納付する外国所得税額>その年の控除限度額+その年の地方税控除限度額

2.繰越控除対象外国所得税額

次の場合には、繰越控除対象外国所得税額(その年の前年以前3年以内の各年において納付することとなった外国所得税額のうち、その年に繰り越されることとなった金額)を、その年の控除限度額から外国所得税額を差し引いた金額を限度として、その年分の所得税から差し引くことができます。

各年において納付する外国所得税額<その年の控除限度額

8.手続

外国税額控除の適用を受ける場合には、確定申告書等に、控除額や控除額の計算についての明細を記載しなくてはなりません。また、外国所得税の課税証明書などを添付する必要があります。
 また、7.の繰越控除についても適用を受けようとする場合には、これ以外に、適用対象となった過去の各年分に記載されている控除限度額や外国所得税額を記載しなくてはなりません。同時に、その各年の控除対象となる外国所得税の申告書等や一定の資料も提出する必要があります。

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講演者

  • 福島 真一
    信成国際税理士法人 パートナー

    米国公認会計士

    福島 真一

    略歴
    2000年 東京大学経済学部卒業
        株式会社山武(現アズビル株式会社)入社
    2006年 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(現PwC税理士法人)入社
    2013年 信成国際税理士法人参画

    株式会社山武において、連結決算の取りまとめおよびレポーティングを行い、税理士法人プライスウォーターハウスクーパースにおいて、特定目的会社、海外からの投資および外国法人に係る税務など国際税務およびその周辺業務を経験しました。現在は海外に資産を有する国内の富裕層及び日本に在住する外国人に対して、所得税・相続税を中心とした国際資産税サービスを提供しています。
    東京弁護士会多摩支部、株式会社オウチーノ等でセミナー講師を務めており、「海外資産の税金のキホン」 (2016年7月/税務経理協会)等を執筆しています。

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